月経前になると腰が痛いのはなぜ?―月経周期から考える腰痛の見方―

整形外科で腰痛を訴える女性患者さんを担当したとき、まず何を考えるだろうか。

腰椎の可動性。
筋緊張。
圧痛。
神経症状。
姿勢。
股関節機能。
仙腸関節周囲の評価。

もちろん、これらは腰痛を考えるうえで重要な評価である。

ただ、臨床では時々、

「腰部を評価しても、症状と評価結果がどうも噛み合わない」

という患者さんに出会うことがある。

画像上は変性所見がある。
しかし、その所見だけでは現在の症状を説明しきれない。

整形外科的テストをしても、症状の再現性や明確な軽減因子が見つからない。

それでも患者さんは、

「生理前になると毎回腰が痛くなるんです」

と話している。

この「生理前」という情報を、評価の中でどのように扱っているだろうか。

診療録の「その他」に書いて終わっていないだろうか。

腰痛を評価するとき、私たちはどうしても「腰」に意識が向きやすい。

でも、腰痛が起こっている身体全体を見たとき、本当に腰部だけを見ていれば十分なのだろうか。

腰痛評価に“月経周期”という時間軸を加える

整形外科で腰痛をみる場合、まず運動器の問題を考えるのは当然だと思う。

腰椎の構造的な問題があるのか。
神経症状はあるのか。
筋・筋膜の問題なのか。
股関節や骨盤帯の機能が関係しているのか。
動作によって症状がどう変化するのか。

画像診断や整形外科的テストと合わせながら、症状の背景を考えていく。

これは決して間違った考え方ではない。

ただ、女性の腰痛をみるときには、ここにもう一つ、

月経周期という時間軸

を加えてみてもいいのではないかと思う。

例えば、

「毎月、生理の数日前になると腰が痛くなる」
「生理が始まると腰痛も軽くなる」
「生理前は腰だけでなく、腹部の不快感や倦怠感も出る」

こうした情報がある場合、単純に腰部の局所的な問題だけで説明するのではなく、月経周期との関連を一度考えてみる。

月経時の疼痛には、子宮収縮などに関係するプロスタグランジンが関与している。

また、子宮由来の内臓性の痛みが、腰部や仙骨周囲などに関連痛として感じられることもある。

つまり、

子宮に由来する痛みを、患者さんが腰の痛みとして感じている可能性

も、腰痛をみる際の一つの仮説として持っておく必要があるのではないだろうか。

 

画像所見や診断名に引っ張られすぎていないか

運動器の評価だけで考えようとすると、診断名や画像所見に評価が引っ張られることがある。

例えば、「腰椎椎間板ヘルニア」という診断がついている。

MRIを見れば椎間板の突出がある。

そうすると、

「この腰痛は椎間板ヘルニアによるものだ」

と考えやすくなる。

もちろん、それが症状に関与している可能性はある。

ただ、

画像上の異常があることと、現在の症状をすべてその異常で説明できることは同じではない。

ここは臨床では大事な視点だと思う。

実際に患者さんを評価してみると、

「この動作で痛いはずなのに痛くない」
「このテストでは症状が再現されない」
「日常生活では特定の動作よりも、生理前に痛くなる」

ということもある。

こういうときに、

「評価がうまくいっていない」

と考えるだけではなく、

そもそも今立てている仮説が違うのではないか

と考えることも必要になる。

 

月経周期は“背景情報”ではなく“時間的な評価情報”

もう一つ見落としやすいのが、月経周期を単なる背景情報として扱ってしまうこと。

「生理前は痛い」

という情報を得ても、

「女性だからそういうこともあるよね」

で終わってしまう。

でも、それが毎月繰り返されているのであれば、それは単なる背景情報ではない。

症状を理解するための、

時間的な評価情報

なのかもしれない。

ここで考えたいのは、

「月経が原因なら仕方ない」

ということではない。

むしろ逆である。

月経周期と腰痛の関連が考えられるのであれば、そこからもう一段階、評価を深めることができる。

 

「月経由来」と決めつけるのではなく、評価軸を増やす

まず確認したいのは、

この腰痛には周期性があるのか

ということ。

毎月同じような時期に痛くなるのか。
生理前に増悪して、生理が始まると軽減するのか。
それとも、生理とは関係なく常に痛いのか。

この違いだけでも、考えるべき仮説は変わってくる。

さらに、

「最近、睡眠が崩れていないか」
「仕事や家庭でストレスが増えていないか」
「以前から痛みが続いている部位はないか」
「最近、痛みを強く感じるような出来事がなかったか」

なども確認していく。

なぜなら、月経周期による変化だけではなく、睡眠不足やストレスなどによって疼痛感受性が変化している可能性も考えられるからだ。

つまり、

「子宮から腰に痛みが来ている」

という一つの原因だけで考えるのではなく、

月経周期 × 疼痛感受性 × 自律神経系の変化 × 既存の慢性疼痛

などが重なって、腰痛として表れている可能性も考えてみる。

ここで大事なのは、

月経由来の腰痛と診断することではない。

むしろ、

運動器だけでは説明しきれない腰痛に対して、月経周期という評価軸を追加すること

だと思う。

 

臨床でどこから聞くか

では、実際の臨床ではどこで月経周期に目を向ければいいのか。

私は、最初からすべての女性患者さんに婦人科領域の詳細な問診をする必要があるとは思わない。

まずは通常通り、腰部を評価する。

その中で、

  • 症状の再現性が乏しい
  • 明確な軽減因子が見つからない
  • 画像所見と症状が一致しない
  • 運動器の評価だけでは症状を説明しきれない

といった違和感があれば、一度視点を広げてみる。

そこで、

「この痛み、月経周期と関係していますか?」

と聞いてみる。

さらに、

「生理の何日前くらいから痛くなりますか?」
「生理が始まるとどうなりますか?」
「毎月同じような経過ですか?」
「腰痛以外に、生理前に変化する症状はありますか?」

など、症状の時間的なパターンを確認する。

そして、ストレスや睡眠不足など、疼痛感受性に影響しそうな出来事についても確認する。

ここで、

「月経前に毎回増悪する」という明確なパターンがあるのか。
それとも、「月経前にたまたま痛みが強かった」のか。

この違いを考えていく。

もちろん、月経と関連しているからといって、すべてが婦人科由来とは限らない。

腰部の運動器的問題がベースにあり、月経周期によって症状が増悪している可能性もある。

だからこそ、

婦人科由来か、運動器由来か

という二択にする必要はないと思う。

 

若手セラピストに伝えたいこと

整形外科で働いていると、どうしても

「腰痛=腰を評価する」

という思考になりやすい。

もちろん、腰部を評価することは大切である。

ただ、腰部だけを見ようとすると、患者さんが持っている他の情報を見逃してしまうことがある。

特に女性の場合、

いつ痛いのか

という時間軸は、一つの評価材料になる。

月経前に毎回腰痛が増悪する。
生理が始まると軽減する。
そこに腹部症状や倦怠感が重なる。

こうした情報が揃ってくれば、少なくとも

「腰部だけの問題なのか?」

と一度立ち止まることはできる。

そして、ここで注意したいのは、

「月経と関係しているなら仕方ない」

と諦めてしまわないこと。

月経周期に伴って痛みが変化することを知っているだけでも、評価の引き出しは増える。

子宮由来の痛みが腰部や仙骨周囲に関連痛として感じられることを知っていれば、

「腰が痛いのに、腰部の評価ではどうもしっくりこない」

という患者さんに対して、別の仮説を持つことができる。

その仮説を持ったうえで、

この患者さんにとって、腰痛を強くしているものは何なのか

と考えていく。

それが月経周期なのか。
睡眠なのか。
ストレスなのか。
既存の慢性疼痛なのか。
それとも運動器の問題が重なっているのか。

そこまで考えると、月経を単なる「婦人科領域の話」として切り離す必要はなくなるのかもしれない。

 

月経周期は背景情報ではなく時間軸

最後に

私たちが普段見ている「腰痛」は、本当に腰だけで完結しているのだろうか。

月経前に腰痛が強くなる。

その情報を、単なる背景情報として流すのか。
それとも、症状を理解するための時間軸として扱うのか。

その違いで、評価の見え方は変わる。

運動器だけでは説明しきれない腰痛に出会ったとき、月経周期という視点を一つ加えてみる。

それだけで、患者さんの痛みを理解する入口が少し広がるかもしれない。

子宮由来の疼痛にはどう介入すればいいの?と思った方は、関連記事「月経痛の“痛みの差”はなぜ起きるのか」も合わせて読んでみてください。

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