月経痛は婦人科だけの問題なのだろうか ―運動療法の視点から考える月経周期と疼痛―

整形外科で患者さんを評価するとき、私たちは活動量や睡眠、ストレス、自律神経症状などを確認することがある。

なぜなら、それらが疼痛や回復過程に影響を与えることを知っているからだ。

では、月経痛やPMSについてはどうだろうか。

腰痛、股関節痛、膝痛を訴える女性患者さんに対して、月経周期や月経随伴症状について問診する機会は、決して多くないように感じる。

実際には、

「月経前になると症状が悪化する」
「月経中はいつも痛みが強くなる」

といった声を聞くことも少なくない。

それにもかかわらず、月経痛やPMSは婦人科の問題として整理され、理学療法の評価項目から外れていることが多い。

私たちは睡眠やストレスは評価するのに、なぜ月経周期は評価しないのだろうか。

 

月経痛やPMSは婦人科領域として扱われやすい

月経痛やPMSは、一般的に婦人科領域で扱われることが多い。

月経痛ではプロスタグランジンによる子宮収縮や虚血が、PMSでは女性ホルモンの変動が主な原因として説明されることが多い。

そのため、治療の中心は薬物療法になる。

NSAIDsや低用量ピルによって症状が改善するケースも多く、有効な選択肢であることは間違いない。

その結果、

「月経痛は婦人科で対応するもの」
「薬でコントロールするもの」

という認識が生まれやすい。

整形外科セラピストにとっても、介入対象として捉えにくい領域になっているのかもしれない。

もちろん、診断や薬物療法の判断は医師の領域である。

ただ、月経痛やPMSを抱える患者さんの身体状態を、セラピストが全く見なくていいということではないと思っている。

 

子宮やホルモンだけで説明しきれるのか

同じような月経周期であっても、症状が強い人もいれば軽い人もいる。

もし原因が子宮やホルモンだけなのであれば、この差はどこから生まれるのだろうか。

臨床では、

睡眠不足が続いている時期、
ストレスが強い時期、
活動量が低下している時期に、

月経痛やPMSが悪化している患者さんに出会うこともある。

もちろん、因果関係を断定することはできない。

しかし少なくとも、月経痛やPMSをホルモンや子宮だけの問題として整理するには、少し無理があるように感じる。

私たちが普段の疼痛評価で確認している要素が、月経周期に関連する症状にも影響している可能性はないだろうか。

 

月経痛やPMSは、身体全体の状態が反映される現象かもしれない

私は月経痛やPMSを、

「婦人科の問題」

としてだけではなく、

身体全体の状態が反映される現象

として捉えてみても良いのではないかと思っている。

睡眠不足が続けば、疼痛感受性は高まりやすい。

ストレスが強ければ、情動面への影響も大きくなる。

自律神経の乱れは、睡眠、疲労感、気分変調、身体症状にも関わる。

活動量の低下は、心身のコンディション全体に影響を与える可能性がある。

もちろん、

「運動不足だから月経痛になる」

と言いたいわけではない。

ただ、月経痛やPMSが長年続いている患者さんを前にしたとき、

睡眠、ストレス、自律神経、活動量といった要素が本当に無関係なのかは、考えてみる価値があると思う。

また、月経痛は急性痛として説明されることが多い。

しかし、毎月繰り返される痛みが何年も続いている患者さんでは、疼痛感受性や痛みの処理機構の変化も考慮する必要があるかもしれない。

 

なぜ運動が有効な人がいるのだろうか

月経痛やPMSに対して、運動が有効とされる報告は複数ある。

では、運動は何を変化させているのだろうか。

運動によってプロスタグランジンが明確に減少する、と単純に言い切れるわけではない。

一方で、運動は

  • 睡眠の質
  • ストレス応答
  • 自律神経調節
  • 疼痛感受性
  • 活動量
  • 気分や疲労感

などに影響を与える可能性がある。

例えば、睡眠不足は痛みを感じやすい状態に関わる。

ストレスは気分変調や疲労感を増悪させる。

自律神経の乱れは、睡眠や身体症状にも影響する。

運動は、これらの要素に対して介入できる可能性を持っている。

だからこそ、運動によって症状が軽減する患者さんがいるのかもしれない。

運動は月経痛そのものを直接改善しているのだろうか。

それとも、睡眠、ストレス、自律神経、疼痛感受性といった身体環境が変化した結果として、症状が軽減しているのだろうか。

この視点を持つことで、月経痛と運動療法の関係は少し見え方が変わる。

 

臨床でどこを見るか

私自身が月経痛やPMSを訴える患者さんをみるときは、まず睡眠状況を確認する。

睡眠不足はないか。
寝つきや中途覚醒に問題はないか。
朝起きたときの疲労感はどうか。

次に、ストレスの有無を確認する。

仕事、家庭環境、人間関係などで負荷がかかっていないか。

さらに、自律神経症状の有無も確認する。

  • 疲労感
  • 頭痛
  • 冷え
  • めまい
  • 胃腸症状
  • 動悸
  • 呼吸の浅さ

などはないか。

月経痛やPMSについては、

いつから続いているのか。
月経前後でどのような変化があるのか。
精神症状が主体なのか。
身体症状が主体なのか。

このあたりを確認する。

その中で運動習慣が乏しい場合は、活動量低下が症状に関与している可能性も考える。

もちろん、運動を行えばすべての月経痛やPMSが改善するわけではない。

ただ、睡眠、ストレス、自律神経、活動量といった要素にアプローチできる可能性がある以上、選択肢の一つとして提案する価値はあると考えている。

 

 

若手セラピストに伝えたいこと

月経痛やPMSは婦人科領域だから関係ない。

そう考えてしまうと、評価の段階で重要な情報を取りこぼしてしまうかもしれない。

実際には、私たちが普段から確認している

  • 睡眠
  • ストレス
  • 活動量
  • 自律神経症状
  • 疼痛感受性

といった項目が、月経周期に関連する症状にも影響している可能性がある。

だからこそ、

「月経痛があるか」

だけではなく、

その背景に何があるのか

を聞いてみてほしい。

運動で改善する人もいれば、そうでない人もいる。

睡眠への介入が有効な人もいれば、ストレスマネジメントが必要な人もいるかもしれない。

婦人科への相談や医師との連携が必要なケースもある。

大切なのは、月経痛やPMSを婦人科の問題として切り離すことではなく、患者さんを理解するための一つの情報として捉えることなのではないだろうか。

私たちは疼痛を評価するとき、多くの背景因子を確認している。

では、月経周期だけをその対象から外してしまう理由は何なのだろうか。

 

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