
産前産後の患者さんを診ていると、ふと思うことがある。
同じように妊娠・出産を経験していても、腰痛が強い人がいる。
恥骨部痛が残る人もいる。
肩や股関節まで症状が広がる人もいる。
一方で、ほとんど痛みなく過ごしている人もいる。
もちろん、産前産後の身体変化が大きいことは間違いない。
ただ、臨床で見ていると少し疑問が残る。
なぜ“同じ産後”なのに、ここまで痛み方が違うのだろうか。
「産後だから」
「骨盤が緩んでいるから」
そう説明できる部分もあると思う。
でも、それだけでは少し説明が足りない場面もあるように感じている。
腹圧の指導、育児姿勢の指導、呼吸の介入。
それらを行っても、なかなか改善しないケースもある。
そんなときに、私自身が大事にしている視点の一つが、
“荷重戦略”
である。
ここでいう荷重戦略とは、
身体がどこに重心を置き、どこで支え、どこに負担を逃がしているか
という見方である。

産前産後の痛みでよく言われること
産前産後の痛みについては、一般的に
- 妊娠中の姿勢変化
- 子宮増大による重心変化
- リラキシンなどによる支持組織の弛緩
- 骨盤帯の不安定性
などが説明として挙げられることが多い。
実際、妊娠中は腹部の増大に伴い姿勢が変化し、腰椎前弯も強くなりやすい。
骨盤帯周囲の支持機構も変化する。
そのため、
「骨盤が緩んでいるから痛い」
という説明は、決して間違いではないと思う。
ただ、臨床ではそれだけでは説明がつかない症例にも出会う。
「骨盤の問題」だけでは説明できない痛み
例えば、同じ産後数か月でも、
骨盤の不安定性がありそうなのに痛みが少ない人もいれば、
画像所見や組織損傷では説明しづらい痛みを訴える人もいる。
また、骨盤そのものへの介入よりも、
立位姿勢や重心位置を変えた瞬間に痛みが軽減するケース
も少なくない。
ここで見逃されがちなのが、
「重心位置」や「荷重戦略の変化」
なのではないかと思っている。
妊娠中、身体は約10か月かけて変化する。
腹部重量の増加に適応するために、身体は前方重心に対してさまざまな代償を作る。
- 胸郭位置
- 体幹機能
- 股関節戦略
- 足部機能
- 足底感覚
つまり身体は、
“妊娠中の身体条件で安定する方法”
を学習しているとも言える。
でも産後はどうだろう。
身体条件は急激に変わる。
一方で、身体の使い方や感覚がすぐに更新されるとは限らない。
ここに、産後の痛みの個人差を考えるヒントがあるのかもしれない。
妊娠中に必要だった戦略が、産後も残っていないか
私は産前産後の痛みを、
「組織が緩んでいる問題」だけではなく、
“荷重戦略が更新されていない問題”として見る視点
も必要なのではないかと考えている。
妊娠中、身体は前方化する重心に適応するために、
- 腰椎伸展優位
- 胸郭後方偏位
- 股関節機能低下
- 足底感覚の変化
- 体幹支持機能の低下
などを代償しながら、なんとか安定性を保とうとする。
これは悪いことではない。
むしろ、妊娠中を乗り越えるための合理的な適応だったはずである。
ただ産後は、身体の条件が急激に変わる。
それにもかかわらず、
脳の感覚や荷重の処理方法が、妊娠中のまま残っている
ことがあるのではないか。
つまり、
「壊れている身体」
として見るよりも、
“妊娠中に必要だった戦略が、産後も残っている身体”
として見る方が、臨床ではしっくりくることがある。

臨床でどこを見るか
私自身が産前産後の症例で見ることが多いのは、まず全体の姿勢アライメントである。
そのうえで、
- 体幹機能
- 足底感覚
- 重心位置
- 前方重心になっている要因
- 股関節・足関節の機能
- 胸郭位置
などを確認する。
特に考えるのは、
「なぜこの人は前方重心になっているのか」
ということ。
単に「反り腰だから痛い」と見るのではなく、
- 胸郭が後方に逃げていないか
- 股関節で受けられているか
- 足底で安定して支えられているか
- 体幹で支えられず、腰椎伸展で固めていないか
を見ていく。
その場で、
- 胸郭をサポートする
- 股関節や足関節の動きを補助する
- 足底感覚入力を変える
などを行い、痛みが軽減するのであれば、
単純な組織由来の痛みだけでなく、
“荷重の処理の問題”
が関与している可能性も考えられる。
もちろん、全例に当てはまるわけではない。
ただ、
「どこが痛いか」
だけではなく、
“どのように荷重しているか”
を見ることで、見え方が変わる症例はある。

若手セラピストに伝えたいこと
産前産後だからといって、見てほしいのは骨盤だけではないと思っている。
もちろん、骨盤帯の評価は重要である。
ただ、それだけではなく、
急激な身体変化の中で、身体がどう適応しようとしているのか
そこを全身で見てみてもいいのではないだろうか。
産後は、身体が回復途中のまま育児負荷も始まる。
抱っこ、授乳、家事、睡眠不足。
その中で身体は、なんとか安定しようとする。
でも、脳の感覚の再学習が身体変化に追いついていないこともあるかもしれない。
だからこそ、痛みの部位だけに囚われず、
一度立ち止まって、
「なぜこの人は、この姿勢で支えようとしているのか」
を見直してみる。
その視点が、産前産後の痛みを考えるうえでの一つのヒントになるのではないかと思っている。









